相続人の一人から寄与分を主張された場合の対処法

相続人の一人から「自分には寄与分がある」と主張された場合どうすればよいでしょうか。

ここではその対処法を説明していきます。

1 寄与分は自分で主張・立証しなければならない

寄与分を主張されて「そうだね」と認めるのであれば、このページを読んでいないと思いますので、「認めない」お考えであることを前提してお話します。

 

まず、話し合いでは解決する可能性は低く、調停、審判、裁判で決着がつくことがほとんどです。双方認めなければ裁判所で決着をつけるしかない事項と言えます。

 

寄与分については、自らに寄与分があるという相続人が証拠に基づいて立証し、裁判官が認めて始めて考慮されるものです。

 

その立証は、口でそういったからというレベルでは到底認めてもらえません。

通常の訴訟と同じく、該当する事実があったことを客観的に証明しなければならないのです。家族・親族間での話となるため、証拠によって立証することは非常に困難である場合がほとんどです。

 

ですから、「立証してください」と相手に求めればよいのです。

なんとなく言っているだけなら早晩諦めることになります。

ただ、相手方が弁護士を頼んで請求してきた場合、本気で認めてもらおうとしていると考えてよいと思います。

2 寄与分の要件

寄与分を主張する場合、寄与分の要件を満たしていることが必要です。

 

①相続人であること

②特別の寄与があること

③被相続人の財産の維持・増加があること

④相続人の寄与が、被相続人の財産の維持・増加と因果関係があること

 

以上のすべてを満たす必要があります。

 

被相続人の方の生前から、上記要件を証明できる証拠を準備していることは稀であり、実際には相当なレアケースといえます。

 

相続人の一人から寄与分を主張されても、その人が上記要件を満たしていることを証明するのを待てばよいことになります。

実際には調停等で主張しても、弁護士がついていれば「先生わかりますよね?」などと調停委員会から示唆され撤回したり、更なる証拠を求められて断念することがほとんどです。

3 類型別寄与分

①事業に関する労務の提供について

典型は、農業や自家営業を夫婦や親子が協力して行うような場合を言います。

要件としては

 

・通常期待されるような程度を超える貢献があること

・労務に見合った対価が支払われていないこと

・労務の提供が一定期間に及んでいること

 

となります。

労務の提供が一時的な場合は含まず数年程度は要すると考えたほうが良いでしょう。

 

労務提供事案の問題点

個人ではなく会社(法人)へ労務提供した場合は原則としてこの類型には該当しません

例外的に、会社が形骸化しており、実質的に個人事業と同視できるような場合は該当し得ると考えられます。

 

寄与分の算定方法

様々な方法が考えられますが、実務上、当該労務の内容に応じた「賃金センサス」※を利用する方法があります。

賃金センサスを利用する場合、通常、生活費を控除します。

 

労務提供の寄与分 = 労務対価額 ×( 1 - 生活費控除割合 )× 寄与期間

②事業に関する財産上の給付

やはり「通常期待されるような程度を超える貢献」である必要があります。

 

具体的には、その資金がなければ倒産を免れなかった状況で、その貸付のおかげで倒産を免れ、その後事業が発展したという場合が挙げられます。

読んでおわかりかと思いますが極限的な事案に限られます。

 

個人ではなく会社(法人)へ事業資金を出資した場合もやはり原則としてこの類型には該当しません。

 

ただし、例外的に、会社が形骸化しており、実質的に個人事業と同視できるような場合は該当し得ると考えられます。

 

寄与分の算定方法は

様々な方法が考えられますが、実務上、給付財産の相続開始時の価額に対し、裁量割合を乗じて算定する方法があります。具体的には事案ごとに判断していくほかありません。

 

労務提供型の寄与分の算定式

 

財産上の給付の寄与分 = 相続開始時の価額 × 裁量割合

③療養看護型

病気や障害によって体が不自由な被相続人の世話をした場合です。

本来なら被相続人の費用で看護する人を雇わなければならなかったところ、寄与分権者のおかげでその費用の支出を免れた、などの事情が必要となります。

 

療養看護型の問題点

妻が夫を療養看護は夫婦間の協力扶助義務の履行にすぎないと考えられます。

 

完全介護の病院に入院していた場合、近親者による療養看護が必要な状態におかれていたことが必要だと思われます。

ただし、医師が近親者の付き添い介護の必要性を認めていたような場合は特別の寄与が肯定される場合もあるといえるでしょう。

 

寄与分の算定方法

介護報酬基準等に基づく報酬相当額に看護日数を乗じ、さらに裁量割合を乗じて算定する方法があります。

 

報酬相当額については、介護保険における「介護報酬基準」が参考となります。

 

労務提供型の寄与分の算定式

 

療養看護の寄与分 = 報酬相当額価額 × 看護日数 × 裁量割合

 

以上3つの類型を説明してきました。

ここまで読んでもらえれば「立証できる場合になんてあるのだろうか」と疑問をお持ちになるかと思います。

そうなのです。よほどの事案でないと相手があきらめない限り相続は解決しないのです。

ですから、基本的にはよほど早期に相続財産を取得しないと困るという場合でなければ、腰を据えてじっくりと対処していけば妥当な結論に落ち着くと言えます。

4 寄与分を請求する方法

 

①話し合い

②調停

③審判

の3つがあります。

以下、それぞれについ解説します。

①話し合いによる

メリット

短期間で解決する可能性がある

裁判所まで行く必要もない

 

デメリット

話し合いで合意できないと何も進展しない

相手にプレッシャーがかからない

 

そもそも、今回のケースでは相手方に主張されて弁護士が各記事をご覧になっているわけですから寄与分を認める意思がないのではないでしょうか。

そうであれば、任意の話し合いでまとまる可能性は少ないのではないでしょうか。

②調停

通常は、遺産分割調停を申立て、そこで主張することになります。

 

メリット

公平な第三者である裁判所を通すことで、調停委員会の説得などによって話し合いが進む可能性があります。

 

デメリット

調停手続は一般に長期間を要する傾向にあります。2か月に1度くらいしか調停が行われない状況です。

平日の昼間に行われるので会社勤めの方は休んで裁判所に行く必要があります。

1回あたりの調停に係る時間も数時間程度に及ぶので相当な労力を要します。

③審判

寄与分を定める処分の審判は、遺産分割の審判の申立てがあった場合にのみ申立てが可能です(民法904条の2第4項)。

 

メリット

専門家である裁判官の判断で決まるため、法律・判例に基づいた結論を得られる

 

デメリット

時間と労力がかかります。

本人のみ、要するに弁護士を頼まないで行うのはかなり困難と言えます。

5 さいごに

以上相続人の一人が寄与分を主張して場合の対処法を述べてきました。

まとめると

 

①基本相手方に立証させればよい、しかもその立証は認められないことがほとんど

②基本受け身でよい。早期に相続財産を取得したいなら調停・審判を視野に入れる

③相手方が弁護士を付けたら、認められる可能性がある。自分も弁護士に依頼することを検討する

 

ということになります。

とりあえず、ご自身のケースがどのような状況にあるのかを弁護士に確認することをお勧めします。

是非当事務所の初回無料相談をご利用ください。

 

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この記事の執筆者

島武広
島武広島法律事務所 代表弁護士(神奈川県弁護士会所属)
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