認知症の親が残した遺言の効力について
目次
認知症にかかっていた両親のいずれかが遺言書を残していた場合、その遺言書は有効でしょうか?
以下述べていきたいと思います。
1、認知症イコール無効ではない
まず、認知症だからといってすべての遺言が無効になるわけではありません。
無効かどうかは「遺言能力」の有無により決まります。
遺言能力とは、自分の行う遺言の意味をしっかりと理解し、その内容を弁識することができる意思能力です。
高齢者が認知症になっていても、まだら痴ほうなど軽度認知症で、遺言の内容を理解しているならば、有効な遺言ができます。
認知症の方がした遺言の場合に遺言が無効になり得るのは、認知症がひどく、最低限の意思能力すら失われているような場合をいいます。
2、遺言を無効とするための手続
具体的には①遺言無効確認調停を申立て、そこで話し合いがまとまらなければ、②遺言無効確認訴訟を提起しなければなりません。
①遺言無効確認調停
遺言が無効であることについて関係者による話合いが折り合わなければ、まずは遺言無効確認調停を申し立てなければなりません(家事事件手続法257条1項)。これを調停前置主義といいます。
遺言無効確認調停における話合いで、相手が遺言を無効とすることに納得すれば、遺言が無効であると確認されます。
相手が納得しない場合には、調停は不成立となります。
なお、多くの場合、無効原因について関係者の間での話合いが調わないからこそ裁判手続を利用するに至っているため、当初から遺言無効確認訴訟を提起しても、裁判所の判断で調停に付さずにそのまま訴訟が行われることもあります(家事事件手続法257条2項但書)。
②遺言無効確認訴訟
遺言無効確認訴訟とは、遺言が無効であることの確認を裁判所に対して求める手続です。遺言無効確認調停が不成立となった場合には、遺言無効確認訴訟を提起できます。
遺言無効確認訴訟は、地方裁判所に提起します。
このとき、親の認知症の程度がひどいなどの理由で遺言が無効であると証明できれば、判決で遺言を無効と確認してもらえます。
3、遺言無効を立証するための証拠
遺言無効を立証するためには下記のような資料を可能な限り集める必要があります。
(1)認知症の被相続人の医療記録や介護記録
特に意思能力の程度をはかるには「長谷川式簡易知能評価スケール」という指標が有効です。これは、認知症の有無や程度を点数によって判断するための指標です。
この長谷川式簡易知能評価スケールで低い点数になると、遺言能力が疑わしいとされ得るので、裁判でも有効な資料となります。
(2)筆跡鑑定について
遺言作成者の直筆の手紙、メモ、日記などが証拠となります。
以上、認知症の方が残した遺言の効力について述べてきました。
その遺言により利益を受ける人間が話し合いで
「そうですね、無効ですね。」
などと認めることはありません。
遺言の効力を争うつもりなら相応の覚悟が必要です。そして、裁判所はそう簡単に無効とはしません。
長く厳しい戦いになるため、この事件は弁護士をつけることが必須と言えます。
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