空き家の相続

「両親が死亡して実家が残されたけれど、誰も住む予定はないから空き家になってしまう
…。とりあえず兄弟で共有にしておけば良い?」

 

人が死亡すると(死亡した人を「被相続人」といいます)、被相続人の財産は相続人に相
続されます。

 

近年、被相続人の住居を相続したものの誰も住まず、空き家として放置されていることが
社会問題となっており、国も空き家を放置させない方針を取っています。

 

社会問題となっている「空き家」とは

 

まず前提として、法律上「空き家」とは次の建物をいいます(空家等対策の推進に関する
特別措置法。いわゆる「空き家法」)。

 

第 2 条(定義)

 

1 この法律において「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住そ
の他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定
着する物を含む。)をいう。(以下、略)

 

引用:空家等対策の推進に関する特別措置法 | e-Gov 法令検索
簡単に言えば「空き家」とは、年間を通じて誰も住んでおらず、使用もしていない建物で
す。

 

国土交通省によれば、空き家の総数は 1998 年から 2018 年の 20 年にかけて 1.5 倍に増加
(567 万戸➡849 万戸)しました。

 

空き家を放置することは『防犯性の低下』『衛生の悪化』『悪臭の発生』『景観の悪化』な
どにつながることが指摘されており、空き家を放置させないことが国の急務となっていま
す。

参照:空き家の現状と課題|国土交通省

 

今日、国は法律を制定して地方自治体が空き家に直接対処できるようにしたり、「空き家
バンク」を支援するなど空き家対策を進めていますが、少子化などを理由とする「家あま
り」の現象もあり、空き家は増え続けています。

 

空き家を相続した時の注意点3つ

地元を離れて生活している方が実家を相続したものの、誰も住まずに実家が空き家になる
ことは多いです。そこで、空き家を相続した(又は相続した不動産が空き家になってしま
う)時の注意点についてご説明します。

 

【注意点①】空き家を放置すると税金の負担が大幅に増える可能性がある

 

地方税法上、専ら人の居住に供する家屋の敷地(住宅用地)は、特例で次のとおり、固定
資産税や都市計画税が軽減されています(地方税法 349 条の 3 の 2、702 条の 3)。

 

【住宅用地に対する固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例】

 

固定資産税 都市計画税
小規模住宅用地
(200 ㎡まで) 6 分の 1 3 分の 1

一般住宅用地
(200 ㎡を超える部分) 3 分の 1 3 分の 2

 

参照:固定資産税・都市計画税(土地・家屋) | 税金の種類 | 東京都主税局

 

 

「空き家を処分したいけれど、解体して更地になると固定資産税が増額するし…。」

そのように考え、相続した空き家を解体せずそのままにしてしまう方も少なくありません。

ですが、「空き家」を放置して次のような状態となった場合、やはり住宅用地特例の対象
から除外されるリスクがあります。

 

そのまま放置すれば、倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
そのまま放置すれば、著しく衛生上有害となるおそれのある状態
適切な管理が行われていないことにより、著しく景観を損なっている状態
その他、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

 

そうなると、結局、固定資産税及び都市計画税の軽減を受けられなくなり、税金の負担が
増大する可能性があるのです。

 

このような状態に該当する空き家を『特定空き家』といいます(空き家法 2 条 2 項)。

 

『特定空き家』に認定されると、市町村長から修繕など周辺の生活環境の保全を図るため
に必要な措置をとるよう「助言・指導」をされ、それでも状態が改善されないときは、必
要な措置をとるよう「勧告」されます(空き家法 14 条 1 項、2 項)。

 

そして、市町村長が「特定空き家等」の所有者等に対して「勧告」した場合は、地方税法
に基づき、空き家の敷地について、住宅用地特例の対象から除外されてしまうのです(地
方税法 349 条の3の2第1項)

 

また、地方自治体によっては、「特定空き家」に至っていなくても、主要構造部(屋根、
外壁、基礎など)が著しく管理不全状態にあり、今後居住の用に供される見込みがない場
合には、住宅用地特例を適用しないとしているところもあります。

 

参照:「特定空家等」に該当すると土地に対する固定資産税・都市計画税の税額が高くなる場合があります
|東京都主税局

 

【住宅用地特例の対象から除外される流れ】

     

  1. 「空き家」の調査
  2. 「特定空き家」に認定
  3. 必要な措置をとるよう)「助言・指導」
  4. 「勧告」+住宅用地特例の対象から除外

 

さらに、正当な理由なく勧告された措置をとらなければ、必要な措置をとるよう「命令」
されることがある(空き家法 14 条 3 項)上、命令に従わなければ、最大で 50 万円の『過
料』を課せられる可能性があります(空き家法 16 条 1 項)。

 

誰も住んでいない空き家であっても、放置せずにちゃんと手入れをしておけば「特定空き
家」に認定される可能性は低いです。

 

更地にすると住宅用地特例が受けられなくなるため空き家をそのままにする場合であって
も、しっかり手入れをしておくことが必要です。

 

空き家を相続した相続人が複数いる場合には、交通費・清掃代・庭木の剪定費用などの管
理費用をどう負担するのかしっかり話し合った上で管理をすることをお勧めします。

 

民事上も、ちゃんと手入れをしていなかったために空き家が倒壊したり、瓦が落ちて通行
人がけがをしたり、近くに駐車中の他人の車が壊れたなどの損害が発生した場合、所有者
が損害賠償責任を負う可能性があります(民法 717 条 1 項)ので、注意してくださいね!

 

また、京都市では「非居住住宅利活用促進税」(いわゆる「空き家税)を設け、空き家の
所有者に対する独自の税金導入が進められています。

 

今後、他の自治体においても、空き家に関する税負担を見直すなどの可能性がありますの
で、空き家を放置しないことはとても重要です。

 

参照:非居住住宅利活用促進税について|京都市

 

 

【注意点②】問題の先送りは、自分の子供らに解決を押し付けることになる可能性も

 

空き家を複数の相続人で共同相続した場合、(相続人が話合いなど何もしなければ)基本
的には空き家は相続人の『共有』となります。

 

例えば、両親が亡くなり 3 人の子供が空き家を相続した場合、法律上、空き家は子供 3 人
がそれぞれ 3 分の 1 の持分で共有することになります。

 

その後、相続人である子供が亡くなれば相続が発生し、子供の持ち分はその配偶者や子供
などの相続人に相続され、さらに共有者が増える可能性があります。

 

子供が 3 人とも亡くなる頃には、通常、どんどん共有者が増えていることが想定されます
し、さらにその次の代では、共有者(親戚)であっても会ったこともない者もいるケース
も珍しくありません。

 

空き家を売却したり解体するなど空き家を処分するには、基本的には共有者全員の同意が
必要です。

 

ですが、共有者が増えてしまうと、いざ処分しようと思っても、まず誰が共有者なのか確
認するだけでも一苦労ですし、会ったこともない共有者と処分について話合いをしたくて
も話合いがまとまらないことも多いです。

 

これまで、不動産を相続した際に登記をしなかった人も多く、日本では誰が相続人か不明
な土地がたくさんあります。所有者不明の土地面積(約 410 万ヘクタール)は九州の土地
面積(約 368 万ヘクタール)よりも広く、それは実に日本の国土の約 2 割にもなるのです。

 

そこで、2024 年 4 月 1 日以降、不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から
3年以内に相続登記の申請をすることを義務付けるよう不動産登記法が改正されました
(正当な理由のない申請漏れには過料の罰則あり)。

 

改正不動産登記法の施行日(登記が義務とされる日)は 2024 年 4 月からですが、それ以前
に相続により不動産を取得していた人も、施行日から 3 年以内に相続登記の申請が義務と
なりますので注意してくださいね!

 

空き家のまま放置すると、結局空き家問題の解決を自分の子供や孫などに押し付けること
になりかねません。

 

空き家問題は、相続人(共有者)が少なく、相続人同士の意見をまとめやすい段階で解決
することを強くお勧めします。

 

参考:なくそう、所有者不明土地!所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが大きく変わります!
|政府広報オンライン

 

 

【注意点③】売りたい時に売れなくなる可能性も

 

空き家を含む家屋は、通常は築年数が経過すれば劣化して価値は下がります。

 

空き家が都心にあったり、駅が近いなど利便性の高い場所にあれば、(空き家自体はとも
かく)敷地に資産価値がありますので、急いで空き家を処分しなくても、いずれ売却でき
る可能性は高いでしょう。

 

ですが、敷地自体の資産価値も高くない場合には、空き家は放置すればする分価値が下が
り、どんどん売れなくなってしまう可能性を視野にいれなければいけません。

 

「特定空き家」に認定されないためにも定期的にメンテナンスの費用はかかりますし、先
ほどご説明したとおり、どんどん共有者が増えた場合には、売りたくても他の共有者の同
意が得られずに売れなくなることは十分予想できます。

 

空き家は、売れるタイミングで売った方が良いことも多いです。

 

空き家の市場価値などを踏まえて、売却するか手元に置いておくかは慎重に判断されるこ
とをお勧めします。

 

空き家を共同相続した場合の対処法を解説

 

それでは、空き家を共同相続した場合の対処法についてご説明します。

 

 

【対処法①】相続放棄をする

 

 

相続放棄は、相続人が相続を拒否して、最初から相続人にならなかったことになる制度で
す(民法 939 条)。

 

相続財産に空き家があった場合、相続放棄をすれば空き家の相続を免れます。

 

ただし、相続放棄をした場合、空き家だけではなくその他の財産についても全て相続でき
なくなることに注意してくださいね。

 

相続放棄をしても空き家の管理義務を負うケースに注意!

 

相続放棄をすれば、空き家を管理する義務が一切なくなるわけではありません。
2023 年 4 月 1 日以降、相続放棄をした方の相続財産の管理義務は次のとおり規定されてい
ます。

 

① 「相続放棄をした時に、現に占有している相続財産」について
② 相続人(法定相続人全員が相続放棄をした場合には、相続財産の清算人)に対してその
財産を引き渡すまでの間
③ 自己の財産におけると同一の注意義務をもって保存すること

 

「相続放棄時に現に占有している」というのは、例えば、被相続人の生前、被相続人の所
有する不動産に一緒に住んでいた場合などです。

 

例えば、実家と離れた場所で生活しており、被相続人の財産とは全く関わらずに生活して
いたという方であれば、相続放棄をすれば、基本的には(被相続人の死亡により空き家と
なった)実家を含む相続財産の管理義務は負いません。

 

他方、実家で被相続人と同居しており、被相続人の死亡に伴い転居して実家が空き家にな
るという場合には、相続放棄をしても、基本的に空き家となる実家の管理責任を負う可能
性があります。空き家の管理義務を負うか分からないという場合には、まずは弁護士にご
相談ください。

 

【対処法②】空き家を欲しい相続人がいたら、引き取ってもらう

 

複数の相続人が空き家を共同で相続した場合、空き家の所有権について何も取り決めなけ
れば、基本的には法定相続分に沿った持ち分割合で共有となります。

 

他方、共同相続人は「遺産分割協議」により次のような方法で、相続した空き家の所有権
を決めることができます。

 

現物分割:その形状や性質を変更することなく分割する方法。

 

*空き家などの不動産が複数ある場合には、相続人がそれぞれ別の不動産を相続すること
ができます。

 

換価分割:空き家を売却して得られた金銭を分割する方法

 

代償分割:空き家の所有権を 1 人の相続人に相続させる代わりに、他の相続人に対して相
続相当分の代償金を支払う債務を負担させる方法

 

共有分割:相続人の共有とする方法

 

他の相続人が空き家を相続したいけれど自分は要らないという場合、「代償分割」が適し
ています。

 

例えば、相続人が 3 人いて空き家の価値が 900 万円という場合には、空き家の所有権を取
得する相続人は、他の 2 人に対して基本的には 300 万円ずつ代償金を支払って空き家を単
独で相続します。

 

ただし、法定相続分に応じた代償金にこだわると分割ができないことも多いです。
空き家を欲しくない場合には、相続相当分の代償金にこだわらず、柔軟に対応することも
大切です。結局話合いがまとまらず、欲しくもない空き家を共有となると、さらに処分が
大変になる可能性もあります。

 

法定相続人の相続割合と遺産分割について詳しくはこちらの記事をご確認ください。

 

【対処法③】賃貸や売却で空き家を有効活用

 

空き家は、所有しているだけでメンテナンスなどの維持費用や税金などの費用が必要です。
賃貸に出して不労所得を得たり、思い切って売却して活用できる現金に換える方法も検討
してみてください。

 

地方自治体が主体となって運営する「空き家バンク」に登録してみるのも良いですね。

 

なお、相続した空き家を賃貸する場合、通常は持ち分の過半数以上の同意があれば賃貸契
約を締結できます(*賃貸期間によって全員の同意が必要な場合もあります)。
例えば、子供 3 人が同一持ち分で相続した場合、基本的に 2 人の同意があれば賃貸は可能
です。

 

他方、売却する場合には、3 人全員の同意が必要です。

 

なお、相続した空き家を、2023 年 12 月 31 日までに売却した場合には、一定の要件を満た
せば譲渡所得の金額から 3000 万円までは控除を受けられる可能性があります(*2023 年
2 月時点の情報です。)!

 

確かに、2023 年 4 月 27 日から「相続土地国庫帰属制度」により、相続した『土地』につ
いて、一定の条件下で国が引き取る制度が開始します。

 

ただし、国が引き取るのはあくまでも『土地』ですので、空き家がある場合には申請をし
ても却下されます。相続土地国庫帰属制度により土地を引き取ってもらうには、まずは空
き家を解体する必要があるのです。

 

 

 

 

 

この記事の執筆者

島武広
島武広島法律事務所 代表弁護士(神奈川県弁護士会所属)
当サイトでは、相続問題にまつわるお悩みに対して、弁護士の視点で解説をしています。また、当事務所にて携わった事案のポイントも定期的に更新しています。地元横須賀で、「迅速な解決」を大切に代理人として事件の解決に向けて取り組んでいます。

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