未成年者が相続人にいる場合の注意点と必要な手続き
目次
1.はじめに:未成年者は単独で遺産分割協議に参加できない
ご家族が亡くなり相続が発生した際、相続人の中に未成年者が含まれている場合は特別な手続きが必要になります。
民法上、未成年者は十分な判断能力が備わっていないとされ、単独で法律行為を行うことが認められていません。
遺産分割協議も重要な法律行為であるため、未成年者が単独で参加することはできません。
成人になるまで待つという方法も考えられますが、相続税の申告には「被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内」という期限があるため、成人を待っていては申告期限に間に合わず、延滞税などが課される恐れがあります。
なお、2022年4月以降、成年年齢は満20歳から満18歳に引き下げられています。
2.原則:未成年者の代理は親が行うが「利益相反」に注意
未成年者が遺産分割協議に参加できない場合、原則として親権者(親)が法定代理人として代わりに参加します。
しかし、親と未成年の子どもが同時に「共同相続人」となるケースでは注意が必要です。
例えば、父親が亡くなり、母親と未成年の子どもが相続人となる場合、母親が子どもの代理人になることはできません。
これを「利益相反」といいます。
親の取り分を増やせば子どもの取り分が減少し、逆に子どもの取り分を増やせば親の取り分が減少するという対立関係にあるためです。
これは、親が主観的に「子どものために」と思っていたとしても、外形的・客観的に利害が対立していれば利益相反にあたると判断されます。
3.特別代理人の選任が必要なケースとは
上記のように親権者と子どもが利益相反の関係にある場合、親権者に代わって子どもの利益を守る「特別代理人」を家庭裁判所に選任してもらう必要があります(民法826条1項)。
さらに、未成年者が複数いる場合には、子どもの間でも利害が対立するため、子ども一人につき一人ずつ、別個に特別代理人を選任しなければなりません(民法826条2項)。
例えば、幼い兄弟の代理人を誰か一人がまとめて行うことはできないため注意が必要です。
4.特別代理人の選任が不要なケース
一方で、利益相反が生じない以下のようなケースでは、特別代理人を選任せず、親がそのまま法定代理人として手続きを進めることができます。
・親が相続放棄をした場合:親が自身の相続放棄を先に行うと、初めから相続人ではなかったものとして扱われるため、子どもと利害が対立しなくなります。
・離婚した前妻(前夫)の子が相続する場合:離婚した親は被相続人の共同相続人ではないため、利益相反にはなりません。
ただし、未成年の子が複数いる場合は、一人のみ法定代理人になれ、他の子には特別代理人が必要です。
・代襲相続の場合:片方の親がすでに亡くなっており、祖父母の相続などで未成年の子が代襲相続人になる場合、存命の親は相続人ではないため法定代理人になることが可能です。
5.特別代理人の選任手続きと必要書類
特別代理人の選任は、親権者や利害関係人が、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
必要書類としては、申立書、未成年者と親権者の戸籍謄本、特別代理人候補者の住民票などのほかに、「遺産分割協議書案」などの利益相反に関する資料の提出が求められます。
特別代理人の候補者は、相続人以外の親族(叔父や叔母など)を指定することが多いですが、弁護士などの専門家に依頼することも可能です。
6.特別代理人を選任しない場合のリスク
利益相反にあたるにもかかわらず、特別代理人を立てずに親権者が勝手に未成年の子どもを代理して遺産分割協議を行った場合、その行為は「無権代理行為」となります。
未成年者が成人に達した後に追認(後から同意すること)しない限り、その遺産分割協議は有効になりません。
結果として、遺産分割協議書が無効として扱われ、不動産の相続登記(名義変更)や預貯金口座の名義変更などの手続きができなくなってしまいます。
7.遺産分割の内容における注意点:法定相続分の確保
特別代理人を選任して遺産分割協議書案を家庭裁判所に提出する際、裁判所は未成年者の権利を保護する観点から審査を行います。
そのため、基本的に「法定相続分程度は子どもに相続させる」内容でないと認められにくい傾向があります。
例えば、「母親がすべて相続すれば配偶者の税額軽減制度で相続税がゼロになる」という状況であっても、子どもの権利を害するとみなされる場合は全額相続が認められず、結果として法定相続分通りに分けることで多額の相続税を納めなければならなくなるケースもあります。
8.胎児が相続人になる場合の扱い
見逃されがちですが、胎児についても、無事に生まれてくれば相続人としての権利を有します。
そのため、胎児がいる場合は、できるだけ出産を待ってから遺産分割協議を進める方が確実です。
胎児が無事に生まれた後は、他の未成年者と同様に特別代理人の選任が必要となります。
万が一死産だった場合は相続権を失うため、法定相続人が変わることになります。
9.トラブルを防ぐための事前対策:遺言書の作成
未成年者がいるご家庭で、「万が一のときは配偶者に全財産を相続させたい」と考えている場合、生前に「遺言書」を作成しておくことが非常に有効な対策となります。
遺言書で「妻(夫)に全部相続させる」と指定しておけば、遺産分割協議を行う必要がなくなるため、特別代理人の選任手続きの手間や、法定相続分にとらわれて予期せぬ相続税が発生するリスクを回避できます。
以上、未成年者が相続人にいる場合の注意点について説明してきました。
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