相続人に軽度の認知症の方がいるとき遺産分割はどうなるのか?判断基準や対処法を徹底解説
目次
1.はじめに:認知症の相続人がいる場合の遺産分割の原則
親族が亡くなり相続が発生した際、遺産をどのように分けるかを決める「遺産分割協議」は、法定相続人全員が参加して合意する必要があります。
しかし、高齢化が進む現代では、遺された配偶者や兄弟姉妹など、相続人の中に認知症を患っている方が含まれるケースが増加しています。
認知症の状態にあると、自分の行為の結果を正しく判断する能力(意思能力)が低下します。遺産分割協議での同意も法律行為に当たるため、意思能力を持たない状態で行われた合意は法律上無効となります。
そのため、相続人に認知症の方がいる場合、通常のままでは相続手続きがストップしてしまうリスクがあるのです。
2.軽度の認知症なら遺産分割協議は可能か?
結論から言えば、認知症の診断を受けていたとしても、必ずしも遺産分割ができないわけではありません。
一言で「認知症」といっても、その症状の程度は人それぞれであり、日によって状態が変わることもあります。
そのため、軽度の認知症であり、話し合っている内容を正しく理解し、自分の意思で遺産分割協議書に署名・押印できるだけの「意思能力」が残っているのであれば、そのまま遺産分割協議を行うことが可能です。
3.遺産分割ができる「意思能力」の判断基準
では、どの程度の理解力があれば「意思能力がある」と認められるのでしょうか。
一般的に、意思能力は7〜10歳程度以上の判断力が必要とされています。具体的には、以下の事柄を自身で理解し、適切な受け答えができるかが問われます。
・被相続人(亡くなった方)が誰かを理解しているか。
・自分が相続人であり、法定相続分などのルールがあることを理解しているか。
・遺産(財産)の内容や、遺産分割の手続きが必要な意味を理解しているか。
・自分が取得した財産は自分で管理することや、他人が取得した財産は自分のものにならないことを理解しているか。
・一度同意したら原則として撤回できないという「法的効果」を理解しているか。
よくある誤解として、「自分の住所や氏名、生年月日が言えるから大丈夫」「昔のことは覚えているから大丈夫」と家族が安易に判断してしまうケースがあります。
しかし、遺産分割という複雑な手続きを理解できなければ、意思能力があるとは認められません。
最終的に遺産分割ができるか否かを判断するのは金融機関や司法書士などであるため、事前に医師の診断書を取得し、専門家に相談することが不可欠です。
4.認知症の相続人がいる場合の「絶対NG行動」
相続手続きを進めたい焦りから、他の家族が誤った方法をとってしまうケースがありますが、以下の行動は絶対に避けてください。
- 遺産分割協議書の署名を代筆する
認知症で文字が書けないからといって、他の相続人が勝手に名前を書くことは認められません。
たとえ本人の意思に沿っていると考えていても、後から有効性が争われるだけでなく、「有印私文書偽造罪」などの刑事責任に問われる恐れがあります。
- 勝手に相続放棄の手続きをする
「本人は施設に入っていてお金を使わないから」と、他の相続人が本人に代わって相続放棄の申し立てをしても、家庭裁判所には受理されません。相続放棄も法律行為であるため、意思能力がない状態では行うことができません。
5.遺産分割協議を保留・放置するリスク
対処法が分からず、遺産分割協議をしないまま放置してしまうのも非常に危険です。
協議が行われないと、以下のような大きな弊害が生じます。
- 亡くなった方の預貯金が凍結され、引き出しができなくなる(※仮払い制度を利用すれば上限150万円または法定相続分の3分の1までは引き出し可能ですが、根本的な解決にはなりません)。
- 不動産が相続人全員の共有状態のままとなり、売却や賃貸といった処分が一切できなくなる。
- 相続税の申告期限(死後10ヶ月)に間に合わず、「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額の軽減」といった大幅な税金控除制度が利用できなくなる。
6.意思能力がない場合の対処法「成年後見制度」
もし、軽度ではなく意思能力が不十分だと判断された場合、遺産分割協議を進める唯一の正攻法は「成年後見制度」を利用することです。
この制度は、判断能力が低下した本人に代わって、代理人(後見人など)が財産管理や契約などの法律行為を行うものです。
・軽度の認知症なら「補助人」を選任する
成年後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて「補助」「保佐」「後見」の3つのタイプがあります。
比較的症状が軽い方の場合は、家庭裁判所に申し立てて「補助人」を選任してもらうことになります。
補助人には、本人が希望する範囲内で、特定の法律行為についての同意権や代理権が与えられます。
・成年後見制度の注意点
一見便利な制度ですが、利用にあたっては以下の点に注意が必要です。
第一に、親族ではなく弁護士や司法書士などの専門家が選任される可能性が高いことです。令和4年の統計では約8割のケースで親族以外の専門家が選ばれています。
第二に、専門家が選任された場合、本人が亡くなるまで毎月2万円〜5万円程度の報酬を継続して支払い続ける必要があります。
第三に、後見人や補助人の使命は「本人の財産を守ること」であるため、本人の取り分が法定相続分を下回るような遺産分割(例:子どもがすべて相続する等)には、原則として同意してくれません。
・「利益相反」の問題と臨時補助人
認知症の母と、その補助人である長男がどちらも相続人になるような場合、長男が自分に有利な分割を行うことを防ぐため、「利益相反」となります。
この場合、そのままでは遺産分割協議ができず、家庭裁判所に「臨時補助人(または特別代理人)」の選任を申し立てる必要があります。
7.将来のトラブルを防ぐための「生前対策」
このように、相続発生後に認知症が発覚すると、時間と費用、大きな労力がかかります。
そのため、本人が元気で意思能力がしっかりしているうちに生前対策を行っておくことが最も重要です。
- 遺言書の作成:遺言書で「誰にどの財産を相続させるか」を指定しておけば、遺産分割協議を経ずに相続手続きが完了します。
作成時の意思能力が後で疑われないよう、医師の診断書を用意し、公証役場で公正証書遺言を作成すると安心です。
- 家族信託:親が元気なうちに財産の管理処分権を子どもに託す契約を結んでおくことで、認知症発症後もスムーズに財産を運用・処分できます。
- 生前贈与:暦年贈与や相続時精算課税制度を活用し、あらかじめ財産を移転しておく方法もあります。
8.まとめ:自己判断せず早めに専門家へ相談を
相続人の中に軽度の認知症の方がいる場合、遺産分割協議ができるかどうかは専門的かつ慎重な判断が求められます。
家族だけで「このくらいなら大丈夫だろう」と安易に手続きを進めると、後々協議が無効になったり、金融機関で手続きを拒否されたりするリスクがあります。
相続手続きには期限のあるものも多いため、財産状況や本人の症状を整理し、早めに弁護士に相談して、正しいステップで解決を目指しましょう。
遺産分割でお悩みでしたら是非島・鈴木法律事務所の初回無料相談をご利用ください。
相続を専門とする弁護士として、事案に即した適切なアドバイスをさせていただきます。












